アトピー性皮膚炎は増悪・寛解を繰り返す搔痒(かゆみ)のある湿疹を主病変とする疾患であり、多くは「アトピー素因」を持つとされております。
「アトピー素因」とは家族歴・既往歴にて気管支喘息やアレルギー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれか、あるいは複数とされております。
ご両親やご兄弟でアレルギー疾患があり、良くなったり、悪くなったりする、かいたり、こすったり不機嫌になる湿疹はアトピー性皮膚炎の可能性があります。
特に左右対称に同じ場所(手の付け根や肘の内側など)にあると可能性が高くなります。有病率(アトピーのお子さま)は増加傾向となっており4人に1人はアトピー性皮膚炎と診断されます。
アトピー性皮膚炎で最も大事なことは早期発見、早期治療です。
乳幼児期のアトピー性皮膚炎を始まりとし食物アレルギーや気管支喘息、アレルギー性鼻炎など成⻑とともに次々にアレルギー疾患を起こしていくことをアレルギーマーチと呼びます。
実際に湿疹があると3歳時点での食物アレルギーの発症率は高まります。お子さまの将来のアレルギー疾患予防のためにもアトピー性皮膚炎の管理は重要です。
また、アトピー性皮膚炎はかゆみや炎症により睡眠の質も下がるとされておりお子さまの将来のためにも皮膚を寛解(いい状態)にしておくことは非常に重要です。
診断
アトピー性皮膚炎の診断基準は
- 搔痒(かゆみ)
- 特徴的皮疹と分布
- 慢性・反復性の経過
の3項目を満たすもので、慢性とは「乳児で2か月以上」「乳児以外は6か月」の経過を指します。乳児期にはほっぺやおでこ、お顔などの服から出ている部分が乾燥し始め、赤くなるのが始まりのことが多いです。赤みが強くなるとかゆみが増え、ひっかくことでかさぶたのようになります。広がると顔全体に広がったのちに首、肘、膝などに赤みが出現します。早期発見、早期治療がアトピー性皮膚炎での生活の質の改善と今後の発症予防につながりますのでお子さまの湿疹が気になる場合はご相談ください。
治療法
アトピー性皮膚炎の治療は下記の3本柱が基本とされています。ここでは、薬物療法についてご説明させていただきます。
薬物療法
第1選択としては抗炎症外用薬(炎症を抑える塗り薬)を炎症の場所や重症度に応じて使用します。外用薬を使用する事で最も重要なことは下記の通り十分な量をしっかり塗ることが重要です。
- 1日2回塗る
- 大人の人差し指の先端から第1関節までチューブを押し出した量(0.5g)が掌2枚分
- ティッシュが貼りつく程度であれば適量
外用薬の使用部位
ステロイドの外用薬は塗る場所により吸収率が異なります。
腕の吸収率を「1」としたとき..
- ほっぺた「13」
- 頭皮「3.5」
- くび「6」
- 足首「0.4」
- 足の裏「0.14」
- 陰嚢「42」
重症度
赤みや搔きむしりの痕などにより軽微、軽症、中等症、重症に分かれており重症度により外用薬を選択します。
全身性副作用
全身の副作用はステロイド外用薬のランク、塗布量、塗布機関に依存するため強い外用薬を大量に⻑期間使用すると起こりやすくなります。しかし、適切な使用を行えば日常診療における使用方法では全身的副作用は通常起こらないとされています。
局所的副作用
ステロイド外用薬の局所副作用は毛細血管拡張や皮膚萎縮、市販、皮膚炎。多毛、色素脱失、ざ瘡、毛包炎や皮膚線状があります。局所的副作用はステロイド外用薬のランク、塗布機関、塗布部位、年齢に影響され、高いランクのステロイド外用薬を使用した場合や、⻑期に使用した場合に起こりやすいとされています。多くの局所副反応はステロイド外用薬の中止や適切な処置により改善しますが、皮膚線状は治らないことが多いです。わきや鼠径部、陰部はステロイド外用薬の皮膚からの吸収率が高いので使用する場合は十分な注意が必要です。
このように全身性副反応や局所副反応を避けるためにも部位、重症度に合わせた適切な使用が必要であるため新しい湿疹に塗り薬を使用する場合はご相談ください。
治療目標
治療の目標は症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持することです。赤ちゃんは症状がわからないので下記の状態が理想です。
- 湿疹部分をこすっていない
- 抱っこしているときにこすってこない
- 湿疹がない部分と同様に「つるん」としていて、つまんでも芯が残らない状態
治療期間とプロアクティブ療法
アトピー性皮膚炎は診断基準にあるように慢性・反復性の経過を辿ることが多いです。
「つるつるの皮膚」が達成できた場合が寛解という状態です。寛解を維持するためには、プロアクティブ療法が有効です。
プロアクティブ療法とは
「つるつるの皮膚」達成を3日間連続してから2日毎に1日2回、3日毎に1日2回と少しずつステロイド外用薬を減らすことで寛解導入後の皮膚炎の再燃を予防する治療法を言います。
皮疹が再悪化した場合は再度毎日2回外用薬を使用します。毎日1日2回から毎日1回に減らす方法もあり、2日毎に1日2回と毎日1回は比較したランダム化比較試験やシステマティックレビューでは差はないとされています。プロアクティブ療法では1日2回ステロイド外用薬を使用しない場合は保湿剤の使用が推奨されています。
プロアクティブ療法は⻑い期間ステロイド薬を使用するため抗炎症薬の切り替えも検討します。
ステロイド外用薬以外の抗炎症外用薬
コレクチム(デルゴシチニブ)、モイゼルト(ジファミラスト)、タクロリムス軟膏などがあり、いずれもステロイドは使用していない軟膏です。ステロイド外用薬のⅢ群(ストロング)〜Ⅳ群(ミディアム)に相当します。寛解(皮膚がつるつる)までの期間はステロイドに比較し時間がかかりますが寛解を維持するためには有用と考えます。
コレクチムは生後6か月から使用でき、1日使用上限は5g。モイゼルトは生後3か月から使用でき、1日使用上限はありません。
軟膏容器で処方された場合の注意点
- 有効期限は3か月です
- 分離した軟膏は使用しないでください
- 夏場は冷蔵庫で保存してください
生物学的製剤 デュピクセント(デュピルマブ)について
アトピー性皮膚炎の注射製剤になります。IL-4/13によるシグナル伝達を阻害し、アトピー性皮膚炎の病態に関与するTh2型炎症反応を抑えるモノクローナル抗体(生物学的製剤)です。
有効性について
ステロイド外用薬で効果不十分な中等症意表の小児アトピー性皮膚炎の方の症状が改善すると報告されています(16週間で湿疹の指標の一つEASIが75%改善した方が43%)
治療対象年齢
生後6か月、5kg以上の塗り薬でも治らない方が対象となります。
注射の頻度
30kg未満の方は4週間に1回
30kg以上の方は2週間に1回投与します
副作用
重大な副作用は薬剤アナフィラキシー(0.1%未満)がありその他の副作用としては注射部位反応(7.2%)、注射部位の紅斑(1.5%)、結膜炎(1.7%)、口腔ヘルペス(1.2%)、頭痛(3%)などがあげられます。
デュピクセント(デュピルマブ)の注意点
使用できない方
使用に注意が必要な方
また、デュピクセント投与中は生ワクチンが接種できません。
アトピー性皮膚炎の方のうち、生後6か月間以上、5kg以上の塗り薬でも治らない方でデュピクセントの治療に興味のある方はお気軽にご相談ください。