ウイルス性胃腸炎
胃腸炎は、ウイルスや細菌などが胃や腸に感染し、嘔吐や下痢、腹痛などの症状を引き起こす病気です。特にウイルス性胃腸炎は「おなかの風邪、はきくだし、嘔吐下痢症」とも呼ばれ、乳幼児から大人まで幅広く感染する可能性があります。
症状
多くの場合は嘔吐から始まり、半日から1日嘔吐が持続します。嘔吐に続いて下痢が見られることが多く、3日〜1週間程度続きます。赤ちゃんでは、下痢が⻑びくこともあります。
原因
主な原因はロタウイルス、アデノウイルス、ノロウイルスなどがあります。
▪︎経口感染
・ノロウイルスに汚染された食品を加熱不十分で食べた場合
・感染した人が調理し、ウイルスに汚染された食事をとった場合
▪︎接触感染
・感染者が吐いたものを直接手で触れた場合
ノロウイルスなど感染力が強いものは感染者がトイレの後に触れたドアノブなどからも感染する可能性があります。
治療
ウイルス性胃腸炎には、特別な治療方法はありません。主な治療方法は、脱水を防ぐためのこまめな水分補給・安静・整腸剤内服などの対症療法となります。
重度の脱水(体重の9%以上の脱水)の場合、下記のような所見があり点滴加療を検討しますが、軽症〜中等症の場合(重度ではない場合)は点滴よりも口から飲むことがガイドラインでも推奨されています。
- 意識状態が悪い
- 経口摂取することができない
- 頻脈
- 口の中が乾ききっている
- 皮膚のしわが戻るのに時間がかかる
- 爪を5秒以上押した後、色調が戻るまで時間がかかる
- 尿がほとんどでない
水分・食事の取り方
水分
吐いた後、すぐに水分を取ると再度吐いてしまいます。
1〜2時間おなかを休めた後に、最初は1回mL程度(ティースプーン1杯程度、ペットボトルのキャップ3/4程度)の量を10〜15分間隔で水分補給しましょう。この時にお子さまが欲しがるからと言ってコップでお水をあげてしまわないよう注意しましょう。「少量頻回」の方法で水分補給を行っていても嘔吐する場合は、吐き気止めの坐薬を使ってみましょう。座薬を入れてから30分〜1時間は「飲食をしない」ようにし、時間をおいて「少量頻回」の水分補給を行ってみましょう。水分補給には経口補水液も効果的です。
水分摂取するものはOS-1やアクアライトなどが推奨されますが、飲めないお子さまが多いです。嫌がる場合はリンゴジュースやみそ汁、野菜スープ、チキンスープなどがいいとされています。母乳は中断する必要はなく、むしろ母乳を併用したほうが下痢の治癒、栄養改善に効果があるといわれています。
食事
水分が問題なくとれるようになればミルクや食事は速やかに開始してください。むしろ食事制限することは推奨されていません。ミルクは希釈しても下痢回数や治癒期間に影響しない事からいつものミルクを推奨します。食事はいつも通りで構いませんが「脂肪が多い食事」「糖分が多い飲みもの、炭酸飲料」は避けることが望ましいです。
ご心配な場合はおかゆや温かいうどんから始めることもよいかもしれません。
自宅でできる感染予防
「自宅でできる感染予防」「おむつや汚染された衣類の次亜塩素酸消毒剤での消毒」が最も重要です。
ノロウイルス、ロタウイルスの感染経路は、人あるいは環境表面などを介した経口(糞口)感染で、伝搬経路は接触感染です。非常に感染力が強く、使用したタオルやドアノブなどにも付着し感染します。
そのため以下が感染予防に有効です。
- タオルは共有しない
- 入浴は最後にする
- トイレはふたを閉めて流す
- トイレのドアノブは消毒する
消毒の次亜塩素酸消毒剤は500mLのペットポトルにキャップ2杯分(10mL)のハイターを入れると作成できます。誤飲しないように必ず注意書きをし、小さなお子さまの手の届かないところで保存してください。
嘔吐物・便の処理方法
準備するもの
- 使い捨てマスク、使い捨て手袋
-
次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系消毒剤や家庭用塩素系漂白剤(ハイターなど)
・濃度50倍希釈:水500mlに対して漂白剤10ml(ペットボトルのキャップ約2杯分)
・濃度250倍希釈:水500mlに対して漂白剤2ml(小さじ1杯は約5mlなので、小さじ半分が約2.5ml)
- 拭き取り用の雑巾(古布、古新聞など)
- 大きめのビニール製ゴミ袋
処理手順
▪︎便や嘔吐物の処理
STEP
換気
まずは、窓を開けて換気を十分に行います。
STEP
感染防止
処理を行う方は、使い捨てマスクと手袋を着用します。もしあれば使い捨てエプロンも着用しましょう。
STEP
便・嘔吐物の処理
便や嘔吐物の上に、捨てても良い布やペーパータオルをかぶせ、汚染場所を広げないよう、外から中心に向かって拭き取ります。(吐物中心に半径2m)
STEP
消毒
50倍希釈の塩素系漂白剤で、嘔吐物や便が不着した場所を十分に濡らすように拭き取り、その後水拭きしてきれいに拭き取ります。床の他にも、お子さまが触れた可能性のある場所(ドアノブ・テーブルなど)も忘れずに消毒しましょう。金属部分には250倍希釈の漂白剤を使用し、30分後に水拭きします。
STEP
廃棄
便や嘔吐物の処理に使用したタオルや手袋などは全てゴミ袋に入れてしっかり口を結び可燃ゴミとして処分します。
STEP
手洗い・うがい
処理後は必ず手洗い・うがいを行います。手洗いは石けんで丁寧に洗い、30秒以上流水で流しましょう。
▪︎嘔吐物で汚れた服のお手入れ
50倍に薄めた塩素系漂白剤に30分漬け置きした後、通常の洗濯をします。ものによっては色落ちする可能性がありますので、目立たない部分で試してから行いましょう。もしくは、85度以上のお湯で1分以上洗濯します。素材によっては縮む場合がありますのでご注意ください。
登園、登校基準
おむつが外れてトイレで排便ができる場合は嘔吐がなくなるまで、
おむつで排便する可能性がある場合は、嘔吐・下痢をしなくなるまでは登園、登校できません。
よくある質問
- 経口補水液とは何ですか?
- 経口補水液とは、体内で失われた水分や塩分などを補給しやすいように成分を調整した飲み物です。経口補水液には、「OS-1」や「アクアライトORS」などが推奨されますが飲めないお子さまが多いです。嫌がる場合はリンゴジュースやみそ汁、野菜スープ、チキンスープなどがいいとされています。
- 母乳を与えてもよいですか?粉ミルクは薄めたほうがよいですか?
- 母乳は中断する必要はなく、むしろ母乳を併用したほうが下痢の治癒、栄養改善に効果があるといわれています。ただし、嘔吐した直後は胃腸を休める必要があるため1〜2時間は授乳を控えるようにしましょう。母乳自体は胃腸には良いのですが、母乳は1回に飲む量が調節しづらいため、1回の授乳時間をいつもより短くする、搾乳して少量ずつ与えるなどで工夫しましょう。粉ミルク場合、濃さは普段通りで良いですが、1回に与えるミルク量は少なめにしておきましょう。
- お腹を休めたうえで、「少量頻回」に水分を与えても吐いてしまう場合はどうしたらよいですか?
- 少量頻回の水分摂取を行っても嘔吐が続く時は、ご自宅で我慢せず医療機関を受診しましょう。
- ウイルスの検査は必要ですか?
- 検査は不要です。治療は脱水症を改善することであり原因により治療方針の変更がないためです。迅速検査を行う場合、ロタウイルスは全年齢で保険適応です。ノロウイルスは3歳未満、65歳以上が保険適応となりますが、それ以外は全額自己負担となります。食中毒や集団感染の原因検索は医療機関ではなく行政機関や研究機関で行っています。