頭蓋変形
赤ちゃんのあたまは大人のように1つの頭蓋骨ではなく、6種類8個の頭蓋骨で形成されています。各頭蓋骨は線維性に縫合はしていますが、骨としては癒合していません。これらの頭蓋骨が1つの骨として癒合するのは2〜3歳ごろです。頭蓋骨が癒合していないのは、脳が急速に成⻑するために必要だからです。
生まれてから脳の重さは8か月ごろに2倍、5歳前後で成人と同様の3〜4倍になります。脳が大きくなるためのスペースが必要なため骨が癒合していません。そのため睡眠時の姿勢などによる圧迫により頭蓋骨の位置がずれ頭蓋骨全体の変形が起こります。
あたまの形が変形している子は4か月時が一番多く、約20%前後と言われています。その後、首が座ったのちに改善していき2歳時には3%前後まで低下します。
あたまの形が変わる原因は産まれる前と生まれた後の原因がありますが、産まれた後の影響が強いといわれています。寝ているときのあたまの向き、普段の向きがずっと同じだとあたまの形が斜め(斜頭症)になります。逆に常に上を向けていると短頭になってしまいます。したがって寝ているときのあたまの位置、向きを調整すると改善する報告があります。
あたまの形は治療をした方がいい?
あたまの形のゆがみに関して頭蓋骨早期癒合症などの病的なゆがみがないか確認します。向き癖による位置的頭蓋変形の可能性が高ければ重症度を判定します。重症度は耳の位置やおでこがでていないかなど数値化し重症度の評価を行います。
自宅で確認できる重度の可能性のある所見は、お子さまが3〜4か月前後で下記に該当する場合です。
- 目の後追い(追視)で向き癖の方向を向けることができない
- あたまの上から見たときに一方の耳が前方に出ている
- おでこがでている
治療について
治療は理学療法とヘルメット治療があります。全例ヘルメット治療の対象ではありませんが、重度の場合は検討する必要があるかもしれません。
理学療法
理学療法では寝かせる位置や向きの工夫、赤ちゃんは同じ方向に向かせると圧力が加わり、変形が増悪します。
- 授乳のたびにベビーベッドに寝かせる方向を反対にする
- 向き癖があるほうと逆の方向を興味のある(生活空間の)方向にする
などすると常に向き癖の方向を向くことが減り、同じところに圧力がかかり変形する事が改善します。
▪︎タミータイム
タミーは「うつ伏せ練習」「腹ばい練習」を指します。首すわりの練習などで用いられましたがあたまのゆがみを予防する方法としても有効です。
【始める時期】
お子さまが産科から退院して自宅に戻ってから1日2〜3回、3〜5分程度から開始ししてください。タイミングはオムツを替えた後、目が覚めた直後に行うことをお勧めします。その後徐々に時間を延ばし、30〜60分程度行うと良いとされています。腹ばいやハイハイが可能になるまで意識的に行うことが重要です。お母さん、お父さんの胸やおなかの上で腹ばいにして抱っこするようにすると向き癖の方向や後頭部が圧迫することを防ぐことができます。
【注意点】
タミータイムで気を付けていただきたいことは、寝かせるときうつ伏せにしないことです。顔を動かすことができない時期に柔らかい寝具やクッションでうつ伏せにすると、鼻と口が寝具に埋まって窒息してしまう恐れがあります。
ヘルメット治療
あたまのゆがみが重度の場合は自然に軽快(戻る)することが少なく、ヘルメット治療の適応になる場合があります。
産まれてから2か月ごろであたまの形が気になる場合は重症度を評価し生活改善を導入しますが、生活改善を導入したにも関わらず4か月前後までに進行する場合や重度の場合はヘルメット治療を検討します。ヘルメットの治療は2か月から6か月までの時期に開始することが望ましいといわれていますので、気になる場合はご相談ください。ヘルメットの治療はあたまの柔らかい2か月から6か月の間に開始すると理学療法と比較すると3倍の速さで改善します。治療期間は6か月が標準で場合によっては12か月前後することもあります。ヘルメット治療は自費診療になりますので治療費はご家族負担になります。
よくある質問
- あたまの形は自然に治りますか?
- 向き癖によるあたまのゆがみは2歳前後までに改善します。しかし、向き癖が一定の場合、悪化することもありますので理学療法をする事をお勧めします。理学療法の方法もいくつかあるので相談ください。
- 向き癖は生活や育児ケアと関連しますか?
- 向き癖は利き手と同様でお母さんのお腹にいるときから自然に決まっています。向き癖は1〜2か月ごろまでは意識して反対側を向かせる事で改善することが多いので早めにご相談ください。
- 位置的頭蓋変形とは何ですか?
- 向き癖によるあたまのゆがみは2歳前後までに改善します。しかし、向き癖が一定の場合、悪化することもありますので理学療法をする事をお勧めします。理学療法の方法もいくつかあるので相談ください。
- 受診のタイミングはいつがいいですか?
- 気になった時点でご相談ください。向き癖が改善しやすいのは産まれてから1〜2か月、ヘルメット治療を行う際の推奨期間は産まれてから2〜6か月です。実際のゆがみの具合や病的な疾患(早期癒合症)などを疑う所見がないか診察させていただき必要時は治療適応を判断する病院に紹介させていただきます。
- 重症度の判断の目安はありますか?
-
クリニックを受診していただければスマートフォンで実際にあたまの形を写真に撮りゆがみ度を測定します。ご自宅で判断する重症度が重度の指標としては、お子さまが3〜4か月前後で下記に該当する場合は重度の可能性があります。
- 目の後追い(追視)で向き癖の方向を向けることができない
- あたまの上から見たときに一方の耳が前方に出ている
- おでこがでている
- ドーナツ枕は有効ですか?
- ドーナツ枕の効果は期待されますが基本的に2〜3か月児用のものが多いです。新生児期から対象になっているものはU型ですので購入の際に対象年齢に注意してください。対象と違う枕を使用すると下向きの姿勢になり気道閉塞のリスクが高くなります。
こどもの低身⻑
「低身⻑」とは100人を並んだ時に前から2〜3番目が基準になります。「低身⻑」=病気というわけではありませんが、5〜10%のお子さまに病気が隠れている可能性があり、気になる場合は受診をお勧めします。
「低身⻑」に該当するかどうかは、母子手帳もしくは「日本小児内分泌学会」のWebサイトで確認できます。月齢、年齢での身⻑が色のついている箇所より下であれば身⻑は同じ月齢、年齢の方で並ぶと100人中前から3番目もしくはもう少し前に該当します。
身⻑が低いことが病気なのかの判断で最も重要なのは成⻑曲線です。急激に伸びている場合は、思春期早発症など成⻑率が低下している場合は、甲状腺機能低下症や腫瘍性病変を疑います。また、いつ低身⻑を指摘されたのかも重要です。乳幼児期(infant)、小児期(childhood)、思春期(puberty)に必要な成⻑因子が異なり、時期により鑑別診断も異なる場合があります。
- 乳幼児期:栄養、甲状腺
- 小児期:成⻑ホルモン、甲状腺
- 思春期:性ホルモン
子どもの身⻑が気になる場合はほとんどが家族の遺伝や体質によるものです。しかし、中には原因が隠れている可能性や成⻑ホルモンの補充の適応となるものもありますので、一度ご相談ください。
生活習慣
子どもの成⻑を促すためのに大切なのは、「栄養」「睡眠」「運動」などの生活習慣です。
栄養
バランスのとれた食事が一番重要です。その中でも最も重要なのはタンパク質、不足すると身⻑が伸びにくくなる亜鉛、骨に関連するカルシウムがあります。
▪︎タンパク質
身⻑を伸ばすために最も重要な栄養素はタンパク質です。タンパク質の成分であるアミノ酸のいくつかは、成⻑ホルモンの分泌を促す働きがあります。タンパク質は肉、魚、卵、乳製品、大豆などに多く含まれています。これらの食品をまんべんなく組み合わせて摂ることが、体のなかでタンパク質を効率よく利用することにつながります。
【1日に必要なタンパク質の量】
|
男児 |
女児 |
3〜5歳 |
25g |
25g |
6〜9歳 |
35〜40g |
35〜40g |
10〜14 歳 |
50〜60g |
50〜55g |
15〜17 歳 |
65g |
55g |
18 歳以上 |
60g |
50g |
【タンパク質が多く含まれている食品】
- マグロの赤身:1人前80gでタンパク質21.1g
- 木綿豆腐:1/3丁約100gでタンパク質6.6g
- 鶏ささみ焼き:2本約80gでタンパク質21.8g
▪︎亜鉛
亜鉛は子どもの成⻑に臂臑王に大事な栄養素で味覚を正常に保つ働きもあります。亜鉛が不足すると身⻑の伸びが悪くなったり、食欲不振の原因にもなります。
【1日に必要な亜鉛の量】
|
男児 |
女児 |
3〜5歳 |
4mg |
4mg |
6〜9歳 |
5〜6mg |
5mg |
10〜14歳 |
7〜9mg |
7〜8mg |
15〜17歳 |
10mg |
8mg |
18歳以上 |
10mg |
8mg |
【亜鉛が多く含まれている食品】(動物性食品100mg当たり)
- カキ:14.0mg
- 牛ひき肉:7.6mg
- パルメサンチーズ:7.3mg
- カタクチイワシ煮干し:7.2mg
- 牛もも肉:6.6mg
- 牛リブロース:6.3mg
- 牛ひれ肉:6.0mg
- サクラエビ:4.9mg
- ウナギ(植物性食品):2.7mg
- 小⻨⻨芽:16.0mg
- ピュアココア:7.0mg
- いりごま:5.9mg
- カシューナッツ:5.4mg
- 油揚げ:2.5mg
- ソラマメ:1.9mg
- 糸引き納豆:1.9mg
- がんもどき:1.6mg
▪︎カルシウム
身⻑を伸ばすためにはカルシウムと思いがちですが、骨を伸ばすというより丈夫にします。日本人はカルシウムが不足がちです。症例の骨粗しょう症を予防するためにもしっかりとりましょう。
睡眠
睡眠時間が短い場合は成⻑率が下がってしまいます。成⻑ホルモンは深い睡眠中に分泌されるため質のいい適切な時間の睡眠が必要です。「小学生では8-9時間」「中学生では7-8時間」が推奨されています。
運動
適度な運動を行うと成⻑ホルモンの分泌が促されます。しかし、足に負担がかかるような強い強度の運動は成⻑を妨げる可能性があります。
よくある質問
- 身⻑が気になる場合の相談とは?
-
▪︎成⻑曲線を作成します
病気が隠れていそうなのか、原因はあるのかなど判断します。体質的な予測最終身⻑と比較し評価を行います。
▪︎低身⻑がある場合は血液検査、レントゲン検査を行います
血液検査では甲状腺、IGF-1(成⻑ホルモンの参考値)と必要時に性ホルモンや栄養の評価を行います。レントゲン検査では骨の成⻑が早い、遅い病気がないかを確認します。
- 事前に準備するものはありますか?
- お子さんの今までの成⻑の記録が必須です。事前問診で成⻑の記録を入力いただければ円滑に対応できます。事前問診での成⻑の記録は定期健診と3歳以降は可能であれば年2回ほど記載ください。鑑別に非常に重要ですが、ない、見つからない場合は可能な分を入力ください。
- 負荷試験は行っていますか?
- IGF-1(成⻑ホルモンの参考値)が極端に低い場合や成⻑率が低下している場合は、成⻑ホルモン分泌不全性低身⻑症の可能性があるため専門の病院に紹介させていただきます。
- 産まれた時にかなり小さいと言われましたが関連しますか?
- 産まれた週数や性別や初めてのお子さまか第2子以降かで基準が異なりますが週数と比較し小さい子をSGA(Small for gestational age)児といわれます。SGAの方の約90%は身⻑がみんなに追いつき-2SD以上(母子手帳の範囲内)になります。しかし、みんなに追いつかなかった場合、3歳以降に成⻑ホルモン治療適応となる場合があります。早めに治療開始することで成⻑率が改善しますので気になる場合はご相談ください。